FROM:長谷
あらゆる人間の嗜好や行動などを遺伝率として表現する学問を「行動遺伝学」と言いますが、まずは下記の3つについて、あなたはどう思いますか?
1. スポーツ選手の子供は運動が得意だ
2. 音楽家の子供は歌が上手い
3. 大学教授の子供は頭がいい
顔や体型と同様に、能力も遺伝することが知られているので、あまり違和感は無いかもしれません。
では次の3つはどうでしょうか?
4. 子供が逆上がり出来ないのは親が運動音痴だから
5. 子供の歌が下手なのは親が音痴だから
6. 子供の成績が悪いのは親がバカだからだ
逆の見方をしただけで、ずいぶん印象が違います。
特に6.は、公に口にしてはいけないような空気です。
それでは最後に、次の3つはどう思いますか?
7. アルコール依存症は遺伝する
8. 精神病は遺伝する
9. 犯罪は遺伝する
「ほんとに?」「差別だ」そんなふうに感じましたか?
今日はそんな「言ってはいけない」行動遺伝学のお話です。
言ってはいけない
今回のブログは、たまたま橘氏の新書「言ってはいけない」を読み、面白かったのでシェアさせて頂きます。
まず、「遺伝率」というのは、正確にはどういった数字か皆さんはご存じでしょうか?
例えば、身長の遺伝率は66%とされていますが、これは
背の高さのバラツキのうち66%を遺伝で、34%を環境で説明できる、という事です。
よくある誤解は「確率」と間違える事です。
身長の遺伝率66%というのは、
「背の高い親から66%の確率で背の高い子供が生まれ、34%の確率で背の低い子供が生まれる」という事ではありません。
料理に例えるとわかりやすいのですが、
レシピ毎に料理の味は多様ですが、砂糖をたくさん入れればどんな料理も甘くなります。
同様に、人の身体的特徴や行動、性格、知能なども多様に分布しますが、遺伝率が高いほど環境からの影響は後景に退き、遺伝の影響が強く表れる、という事です。
そして冒頭最後の3つの遺伝については(アルコール依存症、精神病、犯罪)
最新の行動遺伝学では「遺伝する」という事がわかってきています。
詳しくは本書をお読み頂ければと思いますが、
こういった話は優生学や差別にも繋がりかねない為、潔癖症の方にはお勧めできない本です(でも本当に面白い本でした)
色々な遺伝率
最後に、色々な遺伝率を箇条書きで紹介します。「本当かよ」と思われる方は是非本書を一読頂ければと思います。
本書はこういった最新の研究でわかった事項を踏まえて、例えば「アルコール依存症になりやすい遺伝要因をもっている事が初めからわかっているなら、その人がそれを理由にお酒を断りやすい社会にすべきだ」という、あくまで前向きに行動遺伝学を使えないかと模索する良書です。そういった目線で下記からの遺伝率もお読み頂ければと思います。
・身長の遺伝率は66%
・体重の遺伝率は74%(意外にも体重の方が高い)
・論理的推論能力の遺伝率は68%
・一般知能(IQ)の遺伝率は77%
・躁うつ病の遺伝率は83%
・統合失調症の遺伝率は82%
・犯罪心理学でサイコパスに分類される反社会性パーソナリティ障害の遺伝率は81%
まさに「言ってはいけない」タブーに切り込んだ本書。
失望するのか、スルーするのか、前向きに捉えるのか色々な考えがあると思いますが、
少なくとも我々は残されたパーセンテージの要素:環境で全力を尽くす次第です。
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